松阪牛のつめを切ることができる数少ない生産者のうちの一人、松阪市の久保巳吉さん。
牛のつめ切り作業は「削蹄」と呼ばれています。
久保さんは、三十年ほど前にその技術を習い覚え、いまでは削蹄の技術を持つ人は数少なく非常に貴重な存在となっています。かつては、三重県内のみならず和歌山や滋賀県の農家にまで頼まれて出向していたこともあったそうです。
牛のひづめは、体重600キロに達する牛の体を支えるだけあって、半年から一年ごとに手入れをしなければならないとのこと。作業は二人がかりで、一人が足を持ち上げている間に久保さんがつめを切ります。
まさに熟練された職人技!
簡単に牛のつめを切るといっても、そう容易いものではありません。電動式の研磨機や、鉈や鎌、植木用の大きなハサミなどを使い分けの大仕事なのです。
それでも、一頭あたりの作業時間を10分程度にとどめているのがさすがの熟練といったところ。
何十頭もの牛のつめを切った日には、ふらふらになったそうです。
牛の機嫌を損ねると、蹴りつけられたりすることもある危険な仕事でもあります。
つめを変なふうに切って、牛が体調を崩したとなれば大変なことなので、依頼された農家への責任もとても大きい。
久保さん自身も、肥育歴が50年以上ある牛を育てる農家でもあります。
昭和六十一年に、松阪肉牛共進会で最優秀賞を受賞した経歴もある、非常に優れた肥育農家です。
牛がかわいくて仕方がなく、だからボランティアのような削諦の仕事もやってきたのだと久保さんは話します。