毎年、八月最後の日曜日に松阪市西町では「大日会式」が営まれています。
大日如来をまつるこの祭典は、地元の人々からは「大日さん」と呼ばれ親しまれています。実はこの祭典は、牛と非常に深い縁を持っているのです。
地域の人々が足を運び、「大日」と文字が刻まれた一メートルほどの巨大な石碑に向かって手を合わせます。石碑の裏には、江戸時代の天保十一年に建立されたと刻まれ、その歴史の深さを物語っています。
牛との由縁がしのばれるのは、その供え物に秘密があります。
牛をかたどった野菜の供え物が中心に据えられ、魚や菓子などがわきに従えられています。
牛をかたどった供え物は、カボチャが胴体、ナスが頭、二つの豆のさやが角という、ほのぼのとした印象があります。
この「大日さん」には、動植物の生育をつかさどる力を持っているとして崇められているそうです。
古来の農業の原動力である牛馬
とりわけ牛を疫病から守る守護神とされてきました。
昔の農家は、どこの家も牛を飼っており人間の何倍もの力を発揮する農業では欠かせない存在でした。
その牛を大切にする思いは、いまとは比べ物にならなかったことでしょう。
松阪市史にも、牛と信仰の結びつきについての記述が多く見られ、そのほとんどは松阪市上川町の大日寺との関係で語られるものだそうです。
そんな農家にとって貴重な財産だった牛を、一般庶民が食べるようになってからまだ140年ほど。
松坂牛の歴史は、明治時代の文明開化以後に始まったものなのです。