肉牛として出荷される松阪牛は、その多くが子を残さずに食肉となる哀しい運命を背負わされています。
しかし、近年発達した体外受精技術が「処女牛の子」をつくりだすことを可能にしました。
かつては不要物とされていた、屠畜した雌牛の卵巣。これを使って、研究室で受精から培養までを行うのが牛の体外受精です。
既に実用化されており、三重県の農業技術センターの畜産部では松阪食肉公社で食肉にされた松阪牛などから卵巣を取り出し、家畜改良事業団から入手した優良種牛の精液を付けて受精卵を育てています。
同センターでは、昭和63年からすでに生きた牛に人工授精をして受精卵を取り出し、それを他の牛に移植するという体内受精の研究が開始されました。
それを十年ほど前から
体外受精へと分野を広げて日夜研究がなされています。
酪農農家が繁殖も手がけ、この受精卵を使った人工授精を行えば、乳用牛に借り腹をすれば肉用牛の子を次々と生み出すことが出来ます。技術的には子牛づくりから肥育までをすべて地域内でこなすことが可能になっているのです。
松阪牛の産地を振興させるには、肥育農家だけではなく酪農家の力も不可欠となっています。
しかし、残念ながらこういった受精卵移植を試みる酪農家は一部どまりとなっているのが現状です。
乳用牛の雌に、和牛の精液をかけて混血の肉用牛を産ませて、ある程度成長した段階で手放すというほうが農家にとってメリットが大きいためだそうです。
そしてさらに、肉質の良し悪しが左右される子牛の血統を証明する子牛登記が、体外受精だと事実上難しいといった問題も抱えています。
様々な課題も残されてはいますが、松阪家畜市場の子牛市には若干ながら活気がもどりつつあり、今後は体外受精で生まれた子牛で市場が活気付く可能性も大いに秘めていることでしょう。